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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)259号 判決

イギリス国

ロンドン エスダブリュー1ピー 4アール エイ ミルバンク

ミルバンク タワー ヴィッカーズ ハウス(番地なし)

参加人

ヴィッカーズ・ピーエルシー

代表者

ジョン・ダグラス・スミス

訴訟代理人弁護士

中村稔

訴訟復代理人弁護士

田中伸一郎

訴訟代理人弁護士

熊倉禎男

同弁理士

小川信夫

同弁護士

辻居幸一

同弁理士

箱田篤

同弁理士

石川徹

同弁護士

吉田和彦

イギリス国

ロンドン ミルバンク ミルバンク タワー ヴィッカーズ ハウス(番地なし)

脱退原告

コスワース キャスティング プロセシーズ リミテッド

代表者

フランシス ウィルフ リッド サムナー

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

麻生渡

指定代理人

城所宏

澁井宥

中村友之

涌井幸一

主文

特許庁が昭和63年審判第6706号事件について、平成2年12月27日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  参加人

主文と同旨

2  被告

参加人の請求を棄却する。

訴訟費用は参加人の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

コスワース キャスティング プロセシーズ リミテッド(脱退原告)は、昭和56年12月16日に出願した特願昭56-203287号の一部を、1980年12月16日及び1981年11月23日にイギリスにおいてした各特許出願に基づく優先権を主張して、昭和59年4月25日、名称を「使用済鋳物砂を再生する装置および方法」として新たな特許出願とした(昭和59年特許願第83597号)が、昭和62年12月2日に拒絶査定を受けたので、昭和63年4月19日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は同請求を、同年審判第6706号事件として審理したうえ、平成2年12月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成3年2月27日、脱退原告に送達された。

参加人は、平成3年8月8日、脱退原告から特許を受ける権利を譲受け、同月23日この旨を特許庁長官に届け出た。

2  本願発明の要旨

別添審決書写し記載のとおりである(以下、特許請求の範囲第1項記載の発明を「本願第1発明」という。)。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願第1発明は、本願優先権主張日前に頒布された実公昭54-33929号公報(以下「第1引用例」という。)及び特公昭52-45285号公報(以下「第2引用例」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものと判断した。

第3  参加人主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願第1発明の要旨、第1引用例及び第2引用例の記載内容の認定(審決書2頁9行~6頁6行)、第1引用例と本願第1発明との相違点(1)、(2)の認定は認める(同7頁17行~8頁7行)。

しかし、審決は、第1引用例と本願第1発明との対比において、一致点でないところを一致点とし、特に、加熱素子の位置の差異、加熱した砂の通路の有無及び第1引用例における流動溶焼炉1と本願第1発明における加熱ステーションとの、目的、構成、作用効果における相違を看過したことにより一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点(1)につき、第2引用例では電気的加熱素子を排斥していることを看過して、第1引用例と第2引用例を組み合わせることにつき当業者が容易になしうると誤って判断し(取消事由2)、相違点(2)につき、第1引用例におけるサンドクーラー2と、本願第1発明における処理ステーションは、目的、構成、作用効果ともに全く異なるのに、その相違を看過して、相違点(2)は、実質的かつ技術的な構成上の相違であるとは認められないと誤って判断し(取消事由3)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取消を免れない。

1  取消事由1(相違点の看過)

(1)  第1引用例にいう上部燃焼室3は本願第1発明の流動床に該当しないし、第1引用例の装置において流動床内に加熱素子は設けられていない。

第1引用例の装置においては、上部燃焼室3内の一部である流動層7の部分が本願第1発明の流動床に相当するものであって、上部燃焼室3は本願第1発明の加熱ステーションに該当する。したがって、第1引用例には流動床内に加熱素子を設けることはなんら開示されていない。第1引用例の実施例では、流動床の上部である上部燃焼室3及び下部予熱室5内にそれぞれ燃焼熱源が設置されているにすぎない。審決は、第1引用例においても流動床内に加熱素子があるとの誤った認定をした。

(2)  本願第1発明では、加熱ステーションと処理ステーションとの間に砂の通路が設けられているが、第1引用例には設けられていない。

すなわち、本願第1発明では、通路を設けることによって、加熱ステーションで加熱された砂が外気に触れず熱が失われない状態で処理ステーションに供給されるのに対し、第1引用例においては、流動溶焼炉を出た砂がサンドクーラー2に送られて効率よく冷却されるためにはむしろ外気に触れた方がよいので、本願第1発明におけるような砂の通路は設けられていないのである。

審決は、以上のような構成の違い及び技術的意義の差異を看過して、「加熱した砂の通路」及び「前記砂の通路に連結している処理ステーション」を両者の一致点であるとの誤った認定をした。

(3)  第1引用例の流動溶焼炉1は上部燃焼室3を有し、その室内で回収砂を流動層7内に設けたバーナーにより700~1000℃という高温でその溶焼再生が行なわれる(甲第4号証4欄17~19行)のに対し、本願第1発明における加熱ステーション内では、砂を流動層内に設けた電気的加熱素子により250~600℃という比較的低温の範囲内で加熱している(甲第2号証10頁13~16行)。すなわち、第1引用例においては、流動溶焼炉1は高温で砂の再生を完了させるものであるのに対し、本願第1発明においては、砂の再生を加熱ステーションと処理ステーションの2段階で行うものであって、第1段階の加熱ステーションによる再生においては比較的低温度で加熱し、第2段階の処理ステーションによる再生においては第1段階で加えられた熱を利用して緩徐な再生を継続させ完了させるものである。このように、第1引用例における流動溶焼炉と本願第1発明における加熱ステーションとは、砂の再生という目的及び作用効果の点からみても決定的な相違が存する。

審決は、以上のような第1引用例の流動溶焼炉1と本願第1発明の加熱ステーションとの目的、構成及び作用効果の相違を看過し、これが一致すると誤って認定した。

2  取消事由2(相違点(1)についての判断の誤り)

審決は、相違点(1)につき、「第1引用例に記載される装置において、その加熱手段として、バーナーにかえて電気的加熱素子を設けることは当業者が容易になしうることと認められ、しかも、かかる加熱手段の変更により、格別の作用効果が奏されるものとも認められない。」(審決書8頁14行~19行)というが、誤りである。

第2引用例には、電熱器を用いた装置は、内部温度の分布が不統一なため鋳物合成砂が加熱を受けて、粒状物質が燃焼し、再生された砂の純度も不均質であるという欠点があることが指摘されている(甲第5号証2欄21~26行)。また、気体又は液体の燃料が燃焼するバーナーを用いることには、砂が燃焼生成物によって汚染され、砂の再生に使われる酸素の量が燃料の燃焼により消費され、また、燃焼生成物により酸素濃度が希釈される等の欠点があるので、本願第1発明では、バーナーを用いずに電気的加熱素子を用いることとし、しかもその欠点を克服するため、前記のとおり再生を2段階で行なうという方法を採用した。これにより、第1段階の加熱ステーションにおいては比較的低温度で加熱して砂の過熱を避け、第2段階の処理ステーションにおいては第1段階で加えられた熱を利用して長時間にわたって緩徐な再生をすることから温度の不均一性も避けられ、砂の加熱処理も均一になって、再生された砂の純度も均一になるという作用効果を奏するのである。

以上のことからすれば、第2引用例を見た当業者は、電気的加熱素子を用いることを避けるであろうし、仮に第1引用例の流動床の外にバーナーを設けた装置において、その加熱手段としてバーナーに代えて電気的加熱素子を用いたとしても、本願第1発明の電気的加熱素子を流動床内に設けた構成とはならないから、これを容易に想到するということはできず、また、作用効果も全く異なるのである。

3  取消事由3(相違点(2)についての判断の誤り)

審決は、第1引用例記載の装置におけるサンドクーラー2内の諸条件は、「本願第1発明のそれと異なるものではないから、第1引用例記載の装置においても、前述の処理ステーション内再生処理反応は必然的に生じるものと認めざるを得ない。」(審決書9頁15行~20行)というが、誤りである。

第1引用例の装置において、砂は「上部燃焼室3内のバーナー6の加熱と共に、700~1000℃程度で溶焼再生されるのであり、このさい流動層7化して溶焼されることにより、・・・再生砂18となつて上部燃焼室3の出口より連続排出されることになる」(甲第4号証3欄4~11行)のであり、「このようにして溶焼再生された再生砂18は、サンドクーラー2によつて冷却される」(同3欄23~24行)のであって砂の再生は流動層7で終わり、サンドクーラー2内では再生を続けるのではなく、冷却が始まるのである。サンドクーラー2は文字どおり冷却装置であり、ブロワー9によって大量の冷たい空気が供給され、ブロワー9は砂を効率よく冷却するための「熱交換性の高い流動層型式のサンドクーラー」(同3欄28行)であるから、ここで砂の再生は起こりえない。これに対し、本願第1発明においては、加熱ステーション内の流動層から出た砂は、加熱された砂の通路から処理ステーションに至り、そこでさらに再生されるのである。したがって、処理ステーションの砂に燃焼支持ガスを供給するガス供給装置は、砂の再生を継続させるために適量の空気を供給するものであり、決して砂を冷却するために大量の空気を供給する装置ではない。

このように、本願第1発明は、処理ステーションで再生を長時間かけて緩徐に行う点で、再生がすでに済んだ砂をサンドクーラーで急速に冷却する第1引用例とは、本質的に異なるものであり、第1引用例の装置においても、本願第1発明の処理ステーション内の反応は必然的に生じるものとする審決の認定は全く誤っている。審決は、この目的、構成、効果の相違を看過して、相違点(2)は、実質的かつ技術的な構成上の相違であるとは認められないと誤って判断した。

第4  被告の主張の要点

審決の認定判断は相当であり、参加人主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

(1)  審決の「第1引用例にいう『上部燃焼室3』は本願第1発明の『流動床』に相当する」中の「上部燃焼室3」は、「上部燃焼室3内の流動層7」の意味で用いられている。

加熱素子の位置に関して、第1引用例においては「上部燃焼室3内の流動層」に加熱素子が設けられており、一方、本願第1発明の特許請求の範囲には「流動床に設けた」と記載されている。参加人は、特許請求の範囲記載の「流動床」を「流動床内」と特定して意味するように主張するが、特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。

よって、加熱素子の位置について、第1引用例と本願第1発明とは一致しているとした審決の認定に誤りはない。

(2)  本願第1発明の特許請求の範囲には、「加熱した砂の通路」と記載されているだけであって、加熱ステーション17から処理ステーション29の間には砂の通路が設けられており、外気に触れない構成になっているという参加人の主張は、本願第1発明の要旨に基づかないものであり、理由がない。第1引用例における装置において、砂を流動溶焼炉1からサンドクーラー2へ流すためのものは必然的に存在しているのであって、流動溶焼炉1の出口、サンドクーラー2の入口が砂の通路として示されているのである。

(3)  本願第1発明の加熱ステーションについて、特許請求の範囲には、「砂の再生が生じる高温処理温度に加熱するために流動床に設けた複数の電気的加熱素子;加熱ステーションの複数の位置において砂に燃焼支持ガスを導入して砂を流動化するための流動化装置」と記載されており、第1引用例の流動溶焼炉1と同様に加熱素子を有し内部に流動層を形成し、導入された使用済み鋳物砂の有機結合剤である樹脂を燃焼させ再生させるためのものであるといえるのであり、本願第1発明の加熱ステーションは第1引用例の流動溶焼炉1に相当するから本件審決における一致点の誤認はない。

なお、加熱温度に関して、本願第1発明の特許請求の範囲には「砂の再生が生じる高温処理温度に加熱するために」と記載されているのみであり、第1引用例の流動溶焼炉1においても鋳物砂の再生が生じる高温に加熱しているものであるから、高温ということでは同様であって、加熱温度に相違があることを前提とする参加人の主張は理由がない。

2  同2について

審決は、第2引用例に記載された、「電熱器により」「樹脂的鋳物砂を熱再生する装置」をよく知られた従来技術として引用している。この技術事項は本願第1発明と同一技術分野のものであり、電熱器、すなわち電気的加熱素子を用いて再生する装置としては、同一機能を有しているものである。参加人が主張する電気的加熱素子を用いることによる本願第1発明の効果は、一般に加熱手段として電気的加熱素子を用いることにより当然予想される効果であり、第2引用例の従来技術においても同様に奏せられる効果であるから、審決の相違点(1)についての判断に誤りはない。

3  同3について

本願第1発明の処理ステーションについて、特許請求の範囲には「前記砂の通路に連結している処理ステーシヨン;加熱ステーシヨンにおいて砂に加えた熱を利用して砂の再生を継続させるために処理ステーシヨンの砂に燃焼支持ガスを供給するガス供給装置」と記載されているのみである。このうち、「前記砂の通路に連結している処理ステーシヨン」は、第1引用例においても示されており、「処理ステーシヨンにおいて砂に加えた熱を利用して砂の再生を継続させる」ことは、第1引用例の装置のサンドクーラー2内で必然的に生じている再生処理反応のことである。

すなわち、第1引用例において、温度条件については、流動溶焼炉1の上部燃焼室3で鋳物砂が700~1000℃程度で溶焼されると記載されているのみであり、再生がそこで完了することについては示唆がなく、滞留時間の長短等の条件如何により、上記温度条件下でも再生が完了しないこともあるのである。そして、再生砂がこのような砂温を有していることは、砂の再生はまだ起りうる状態になっていることを意味する。してみると、審決認定のとおり、サンドクーラー2は、特別の熱源を設けておらず、樹脂結合剤が完全燃焼されていない高温の砂が供給され、砂の再生はまだ起りうる状態になっており、ブロワー9によって空気、すなわち燃焼用の酸素が供給されていることとなって、本願第1発明の処理ステーション内における諸条件と異なるものではない。そうすると、第1引用例のサンドクーラーにおいても、本願第1発明のような処理ステーション内の処理反応は、必然的に生じているというほかはない。

したがって、審決の相違点(2)に関する認定判断に誤りはない。

第5  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立については、当事者間に争いはない。)。

第6  当裁判所の判断

1  第1引用例の装置と本願第1発明の装置

(1)  甲第4号証により認められる第1引用例によれば、第1引用例に既知の装置として示されている「流動溶焼炉とサンドクーラーとを組合せた鋳物砂の再生装置」は、その考案の詳細な説明の「回収砂17は上部燃焼室3(原文の「5」は「3」の誤記と認める。)内に・・・投入され、下部燃焼室5内においてバーナー6により予熱され、500~1200℃程度の予熱空気の耐火性炉床板4を介しての吹き上げによつて、流動層7化し、上部燃焼室3内のバーナー6の加熱と共に、700~1000℃程度で溶焼再生されるのであり、このさい流動層7化して溶焼されることにより、回収砂中の有機物質分が効率良く燃焼し、また砂粒中の微粉や砂粒よりも比重の大きな湯玉、スクラップ等は流動層7の形成により好適に分離され、再生砂18となつて上部燃焼室3の出口より連続排出される」(同2欄35行~3欄11行)、「このようにして溶焼再生された再生砂18は、サンドクーラー2によつて冷却される。即ち上部燃焼室3より排出される再生砂18は、通常700~1000℃もの砂温を持つているため、これを冷却するのであるが、図例のようにサンドクーラー2は、熱交換性の高い流動層型式のサンドクーラーを用いるのである。同クーラー2は通気性床板11を介して上部は、上部流動冷却室10に、又下部は下部吹込室12に画成されると共に、下部吹込室12(原文の「2」は「12」の誤記と認める。)にはブロワー9を介して冷却空気が給送され、これが床板11上で流動層13となつて流れる再生砂18に対して熱交換を行ない、冷却されて排出されるのである」(同3欄23~35行)との記載及び図面から見て、その流動溶焼炉は、原料である回収砂を溶焼再生するための装置であり、サンドクーラーは、流動溶焼炉において再生が完了した高温の再生砂を専ら冷却する装置として位置づけられており、そのブロワー9は専ら冷却空気を供給するものであることが明らかである。

この事実によれば、第1引用例の鋳物砂の再生装置は、甲第2号証により認められる本願明細書の発明の詳細な説明中に「通常かかる装置はガス加熱式であり、また天然ガス炎は800℃以下の温度で維持するのは困難であるので、ほとんどの現存の熱式再生装置は800~1000℃の温度範囲で稼働する。かかる装置には流動床およびロータリーキルンが含まれる。これらの現存方式では高度の資本投資費があり、砂1トン当り300KWhの範囲の高エネルギー消費がある。この大きいエネルギー入力のほとんどは、砂の温度を赤熱から再使用できる約35℃に下げるように設計されている冷却装置で所要である」(同号証の明細書5頁17行~6頁8行)として、本願第1発明により改良されるべきものとされている既存の装置と同種のものであることが認められる。

(2)  一方、前示本願第1発明の要旨と甲第2、第3号証により認められる本願明細書及び図面によれば、本願第1発明は、加熱ステーションと処理ステーションを主たる構成要素とする使用済鋳物砂を再生する装置であって、その加熱ステーションは、「砂を導入し、加熱する容器であって、電気的加熱素子を有し、内部に流動床を形成するもの」(甲第2号証の明細書7頁15~17行)をいい、そこでは、「高温たとえば600℃までの高温に加熱されることができ、その場合には流動床中で砂の再生が起こり、再生の程度は砂の床中滞留時間に依存する」(同31頁6~9行)ものであること、次に、その処理ステーションは、加熱ステーションにおいて加熱された砂が導入されるところの、「断熱されることができかつ(あるいは)熱損失を補うために熱源を設けることができる」(同12頁15~16行)容器であり、そこには「加熱ステーションにおいて砂に加えた熱を利用して砂の再生を継続させるために処理ステーションの砂に燃焼支持ガスを供給するガス供給装置」(同1頁18~20行)が連設されているから、処理ステーションは、加熱ステーションにおいて加えられた熱を利用して砂の再生を継続するための装置であり、そのガス供給装置は、処理ステーション内において砂の再生を継続させるための「酸素を含み燃焼を生じさせるものであれば特に制限されないが、好ましくは空気である・・・支持ガスを導入する・・・例えば送風器又は単なる通気口」である(同9頁4~9行)ことが認められる。

(3)  上記事実によれば、第1引用例の装置は、その流動溶焼炉において、原料である回収砂を溶焼して不純物を取り除き、砂の再生を完了し、このすでに再生が完了している高温の再生砂を冷却するためにサンドクーラーを設けた装置であるのに対して、本願第1発明は、その加熱ステーションにおいて、原料である回収砂を加熱して溶焼するが、ここでは砂の再生を完了させず、砂の再生は処理ステーションにまで継続され、ここで再生が完了される構成をとるものであり、両者は、その基本的な技術的思想を異にするものといわなければならない。

2  取消事由3について

(1)  上記1に説示したところによれば、審決が、第1引用例の「サンドクーラー2」、「下部吹込室12にはブロワー9を介して冷却空気が給送され」は、「その機能からみて」、本願第1発明の「処理ステーション」、「処理ステーションの砂に燃焼支持ガスを供給するガス供給装置」に相当すると認定したこと(審決書6頁8~20行)は、早計に過ぎ誤りといわなければならない。

(2)  審決は、この一致点の認定における誤りを前提として、本願第1発明の「処理ステーション」及び「ガス供給装置」に関し、審決認定の相違点(2)のみを第1引用例の装置との差異とし、これにつき、「第1引用例記載の装置における処理ステーション内の諸条件は、本願第1発明のそれと異なるものではないから、第1引用例記載の装置においても、前述の処理ステーション内再生処理反応は必然的に生じるものと認めざるを得ない。したがって、上記相違点(2)は、実質的かつ技術的な構成上の相違であるとは認められない」(審決書9頁15行~10頁2行)とする。

しかし、前記のとおり、第1引用例の流動溶焼炉は砂の再生を完了させることを目的とする装置であり、サンドクーラーは流動溶焼炉において再生が完了した高温の再生砂を専ら冷却することを目的とし、ブロワー9はその冷却のために必要な空気を供給することを目的とする装置であるから、これらの装置が完全に作動する限り、サンドクーラー内で砂の再生処理反応は生ずることはないはずであって、仮に、流動溶焼炉において再生が完全に行われなかったため、サンドクーラー内で砂の再生処理反応が生じたとしても、それは、第1引用例の装置の本来の目的に反する現象がたまたま生じたものにすぎず、これをもって、審決のいうように第1引用例のサンドクーラー内で必然的に生ずるものということはできない。したがって、このような第1引用例のサンドクーラーの本来の目的に沿わない現象をとらえて、本願第1発明の処理ステーションの本来の目的である砂の再生の継続と同視する審決の認定及びこれに基づく相違点(2)についての判断は誤りである。

(3)  以上のとおりであるから、本願第1発明の「処理ステーション」及び「ガス供給装置」に関し、第1引用例の装置と対比して審決がした認定判断は誤りというほかはなく、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の取消事由につき判断するまでもなく、審決は違法として取消を免れない。

3  よって、原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 三代川俊一郎 裁判官 木本洋子)

昭和63年審判第6706号

審決

英国 ウォーセスター ハイルトン ロード(番地なし)

請求人 コスワース リサーチ アンド ディベロプメント リミテッド

東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 新東京ビル 中村合同特許法律事務所

代理人弁理士 中村稔

東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 新東京ビル 中村合同特許法律事務所

代理人弁理士 串岡八郎

東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 新東京ビル 中村合同特許法律事務所

代理人弁理士 大塚文昭

東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 新東京ビル 中村合同特許法律事務所

代理人弁理士 宍戸嘉一

昭和59年特許願第83597号「使用済鋳物砂を再生する装置および方法」拒絶査定に対する審判事件(昭和60年1月30日出願公開、特開昭60-18251)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

Ⅰ.本願発明の要旨

本願は、昭和56年12月16日に出願した特願昭56-203287号の一部を、1980年12月16日に出願した英国への特許出願及び1981年11月23日に出願した英国への特許出願を基礎とする優先権を主張して、昭和59年4月25日に新たな特許出願としたものであつて、その発明の要旨は、平成2年9月27日付け手続補正書により補正された全文訂正明細書及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲第1項及び第6項に記載されたとおりの、

「(1) 有機結合剤を含有する使用済鋳物砂を再生する装置であつて、使用済鋳物砂の塊を鋳物から分離する装置;分離した砂を流動床に供給するための砂供給装置;砂の再生が生じる高温処理温度に加熱するために流動床に設けた複数の電気的加熱素子;加熱ステーシヨンの複数の位置において砂に燃焼支持ガスを導入して砂を流動化するための流動化装置、ここで前記砂供給装置は前記砂を前記流動床に供給する前に燃焼支持ガスの存在下に他の流動床内で該砂を加熱することなしに前記砂を流動床へ供給する;加熱した砂の通路;前記砂の通路に連結している処理ステーシヨン;加熱ステーシヨンにおいて砂に加えた熱を利用して砂の再生を継続させるために処理ステーシヨンの砂に燃焼支持ガスを供給するガス供給装置;および処理ステーシヨンから再生砂を取り出す装置、ここで前記処理ステーシヨンは直接再生砂取り出し装置に接続している、上記装置を含む装置。(以下、「本願第1発明」という。)

(6) 有機結合剤を含有する使用済鋳物砂を再生する方法であつて、使用済鋳物砂の塊を鋳物から分離する工程、分離した砂を流動床に供給する供給工程、部分的に砂を供給するために流動床において複数の位置で導入した燃焼支持ガスにより前記砂を流動化しながら複数の電気的加熱素子により、前記砂を再生が生じる高温処理温度に加熱して再生する工程、ここでこの砂は、前記流動床に供給する前に燃焼支持ガスの存在下に他の流動床内で加熱せず、前記高温処理温度範囲に加熱した流動床に直接供給する、部分的に再生された砂を処理ステーシヨンへ通し、そこで、前記流動床で砂に加えた熱を利用して再生を続けるように砂を燃焼支持ガスの存在下で処理する工程、および処理ステーシヨンから再生された砂を取り出す工程を含む方法。(以下、「本願第2発明」という。)」

にあるものと認める。

Ⅱ.引用例

当審において、平成2年3月6日付けで通知した拒絶の理由に引用した実公昭54-33929号公報(以下、「第1引用例」という。)及び特公昭52-45285号公報(以下、「第2引用例」という。)には、以下の技術事項が記載されている。

第1引用例;

〈1〉.鋳物砂の再生装置において、回収砂17は流動溶焼炉1の上部燃焼室5内に、スクリュフイーダーやロータリーフイーダー管により投入される点、予熱空気の耐火性炉床板4を介しての吹き上げによつて、流動層7化し、上部燃焼室3内のバーナー6の加熱と共に、700~1000℃程度で溶焼再生される点、流動層7化して溶焼されることにより、回収砂中の有機物質分が効率良く燃焼する点(第2欄第35行~第3欄第7行、第1図参照)

〈2〉.上部燃焼室3より排出される再生砂18は、通常700~1000℃もの砂温を持つているため、これを冷却する点、サンドクーラー2は、上部流動冷却室10と下部吹込室12に画成されると共に、下部吹込室12(なお、「下部吹込室2」という記載は、「下部吹込室12」の明白な誤記と認める。)にはブロワー9を介して冷却空気が給送され、再生砂18に対して熱交換を行なう点(第3欄第24~第34行、第1図参照)

第2引用例;

穴あき底を有する室を構成し、再生する合成砂をその底の上に装入する樹脂質鋳物合成砂を熱再生する装置もよく知られている。この穴あき底の下には空気室があつて鋳物合成砂の流動化に使う空気の送り口を備えてあり、加熱に必要な温度(なお、「温温」との記載は、「温度」の明白な誤記と認める。)は上記底部の真上に設けてある電熱器から得られる。(第2欄第14~20行参照)

Ⅲ.対比

そこで、本願第1発明と第1引用例の記載事項とを対比すると、第1引用例の「回収砂17」、「上部燃焼室3」、「スクリユフイーダーやロータリーフィーダー管」、「流動溶焼炉1」、「予熱空気の吹き上げによつて、流動層7化し」、「サンドクーラー2」、「下部吹込室12にはブロワー9を介して冷却空気が給送され」は、その機能からみて、夫々本願第1発明の「分離した砂」、「流動床」、「砂供給装置」、「加熱ステーシヨン」、「燃焼支持ガスを導入して砂を流動化するための流動化装置」、「処理ステーシヨン」及び「処理ステーシヨンの砂に燃焼支持ガスを供給するガス供給装置」に相当するものであるから、両者は、有機結合剤を含有する使用済鋳物砂を再生する装置であつて、使用済鋳物砂の塊を鋳物から分離する装置;分離した砂を流動床に供給するための砂供給装置;砂の再生が生じる高温処理温度に加熱するために流動床に設けた複数の加熱素子;加熱ステーシヨンの複数の位置において砂に燃焼支持ガスを導入して砂を流動化するための流動化装置、ここで前記砂供給装置は前記砂を前記流動床に供給する前に燃焼支持ガスの存在下に他の流動床内で該砂を加熱することなしに前記砂を流動床へ供給する;加熱した砂の通路;前記砂の通路に連結している処理ステーシヨン;処理ステーシヨンの砂に燃焼支持ガスを供給するガス供給装置;および処理ステーシヨンから再生砂を取り出す装置、ここで前記処理ステーシヨンは直接再生砂取り出し装置に接続している、上記装置を含む装置である点で一致し、次の点で相違する。

(1)流動床に設ける加熱手段を、本願第1発明は電気的加熱素子としているのに対して、第1引用例ではバーナーを用いている点

(2)処理ステーシヨンの砂に燃焼支持ガスを供給することに関し、本願第1発明は、加熱ステーシヨンにおいて砂に加えた熱を利用して砂の再生を継続させるためとしているのに対し、第1引用例では、再生砂を冷却あるいは再生砂と熱交換を行なうとされているのみで、砂の再生を継続させることについての記載がない点

Ⅳ.当審の判断

そこで、上記相違点(1)、(2)について検討する。

相違点(1)について

使用済鋳物砂の再生にあたり、流動床の加熱手段として電熱器を設けることが第2引用例に記載されており、そして、電熱器は電気的加熱素子に他ならないから、第1引用例に記載される装置において、その加熱手段として、バーナーにかえて電気的加熱素子を設けることは当業者が容易になしうることと認められ、しかも、かかる加熱手段の変更により、格別の作用効果が奏されるものとも認められない。

相違点(2)について

本願第1発明でいう「加熱ステーシヨンにおいて砂に加えた熱を利用して砂の再生を継続させる」とは、本願明細書第10頁第17~18行及び同第32頁第2~5行の記載からみれば、処理ステーシヨンに特別の熱源を必要とせず、加熱ステーシヨンから供給される高温の砂と、ガス供給装置から供給される空気に含まれる酸素とを反応させることにより、緩徐な燃焼を生じさせ砂の再生を継続させる、という処理ステーシヨン内再生処理反応を行なわしめることと認められる。

しかるに、第1引用例の記載事項、即ち、処理ステーシヨンに特別の熱源を設けていない点、加熱ステーシヨンの流動床から供給される砂の温度は、700~1000℃程度の高温である点、ガス供給装置から空気が供給される点からみれば、第1引用例記載の装置における処理ステーシヨン内の諸条件は、本願第1発明のそれと異なるものではないから、第1引用例記載の装置においても、前述の処理ステーシヨン内再生処理反応は必然的に生じるものと認めざるを得ない。

したがって、上記相違点(2)は、実質的かつ技術的な構成上の相違であるとは認められない。

Ⅴ.むすび

以上のとおりであるから、本願第1発明は、本願出願前に頒布された刊行物である第1引用例及び第2引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本願第2発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成2年12月27日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

請求人 被請求人 のため出訴期間として90日を附加する。

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